監督インタビュー

監督 アントニー・マルシアーノ

とても私的で、自伝映画のように感じました。本作が生まれたきっかけは何ですか?

1979年生まれの僕は、携帯電話とインターネットが存在しない世界で育ちました。現代と比べて昔のほうがよかったというのではなく、なんとなくセンチメンタルな気持ちから、「あの瞬間を追体験し、当時の自分をもう一回生きてみたい」と思ったのがきっかけです。そして、その唯一の方法が、架空のラッシュフィルムを作ることでした。このアイデアをプロデューサーも気に入り、背中を押してくれました。まずは自分がもう一度体験したいことを思いつくままに紙に書くことから脚本作りが始まりました。

過去に何度か共同執筆したマックス・ブーブリルと再びタッグを組んでいますね。どんな風に作業を進めるのですか?

性格は正反対ですが、2人とも同い年で、共にパリで育ったので、共通点は多いです。その上、仕事ではお互いに補い合える関係でもあります。作品にもよりますが、段取りは全て僕が進めます。マックスがたえまなく繰り出すアイデアの中から、気に入ったものを拾い上げ、家に帰って全体の構成を考え、対話形式に仕上げています。
この映画の脚本の書き方は、少し特別でした。“本当らしいウソを作る”という僕のこだわりがあったので、「なぜここでビデオカメラのスイッチを入れたのか?」「撮影者は誰?」「それがどうやって分かるのか?」など、同じことを毎回自問しなければなりませんでした。ただ会話を撮るためだけにビデオカメラを使う人はいませんし、さらには撮影者自身がカメラに向かって話をします。これは通常の映画とは正反対のことです。それで時々マックスを苛立たせました。せっかくの素晴らしいアイデアでも、そこで主人公がカメラをオンにする理由がなければ、僕は反対しましたからね。

特定の世代の映画というのは、観客が限られてしまうリスクがあります。これは賭けでしょうか?

たしかに、とても私的なことを描いているので、現在30〜40歳である僕と同世代の人にしか届かないと思っていました。しかしテスト上映の時に、若い人たちもこの物語に共感していることが分かり驚きました。自分の体験は特別なものだと言うことはできますが、実際には皆同じように感じていて、それほどでもないのかもしれませんね。