“サスペンス映画の神様”とも称されるアルフレッド・ヒッチコック。監督デビューから100年。映像が氾濫するこの時代においても、ヒッチコック作品は今なお映画を愛する者たちを魅了し続けている。本作は「本人」が自身の監督作の裏側を語るスタイルで、その“面白さの秘密”を解き明かしていくドキュメンタリー作品である。膨大なフィルモグラフィと過去の貴重な発言を再考察し、観客を遊び心と驚きに富んだヒッチコックの演出魔法の世界へと誘ってくれる。監督と脚本は『ストーリー・オブ・フィルム 111の時間旅行』(11)で6年の歳月をかけて約1,000本の映画を考察しながら映画史を紐解いて見せたマーク・カズンズ。
監督:マーク・カズンズ (Mark Cousins)
1965年生まれの映画監督、作家。北アイルランドのベルファストに生まれ、現在はスコットランドを拠点に活動している。
2004年に発表した著書『The Story of Film』が世界各国で出版されると、タイムズ紙で"今までに読んだ映画についての本の中で最も優れた作品"と評され、本著を元に製作された930分にも及ぶ超大作『ストーリー・オブ・フィルム』(2011)を自ら監督する。制作に6年の歳月をかけ、約1,000本の映画とともに映画史に隠された物語に迫った本作は、各国の映画祭で絶賛をもって迎えられ、映画教育にも多大な影響を与えた。
その後、2010年以降に公開された作品にフォーカスした続編『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』(2021)は第74回カンヌ国際映画祭でカンヌ・クラシックスのオープニングを飾り、日本でも劇場公開された。
その他の作品に、世界各国の映画の中で描かれる子供たちを取り上げた『A Story of Children and Film』(2013)、オーソン・ウェルズの創作の秘密を彼の個人的なスケッチブックから紐解いてみせた『The Eyes of Orson Welles』(2018)、183人もの女性監督を取り上げた14時間にも及ぶ大作『Women Make Film: A New Road Movie Through Cinema』(2019)、イギリスの名プロデューサー、ジェレミー・トーマスの軌跡をロードムービー形式で追った『The Storms of Jeremy Thomas』(2021)など、膨大な映像のモンタージュを駆使し、映画史を新たな視点から切り取る斬新なドキュメンタリーを数多く発表している。これまでの監督作は20作以上に及び、現在もコンスタントに作品を発表し続けている。
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』のマーク・カズンズ監督作品だけあって、その豊富な引用と構成・編集の面白さに感嘆、堪能しました。
山田宏一(映画評論家)
映画史上、誰よりも「語られたがり」な監督、ヒッチコックの生涯研究を、他ならぬ<本人>が行う。人を食った怪作!
菊地成孔(音楽家/文筆家)
ヒッチの映画や”ヒッチコック劇場”を観て育った。彼に関係する文献、ドキュメンタリーには精通しているつもりだが、本作は、僕の知らない映画演出術を、一人称のヒッチがお茶目に教えてくれる。これが、すこぶる勉強になる。仮にAIが彼の技術を真似る事が出来たとしても、「何故そうしたか?」は、本作でしかわからない。だからこそ、観るべきだ。今の映画術のほとんどが、ヒッチを源泉としている事をあらためて知るだろう。
小島秀夫(ゲームクリエイター)
溢れんばかりの映画愛の監督が、これまたエンターテインメントの名人ヒッチコックの世界を深く深く、どこまでも真摯に掘り下げたこの作品、先ずは虚心坦懐に観てから、アレやコレやと語ってください!
原一男(映画監督)
世代的に、ヒッチコックの映画は映画館で見たことがほとんどありません。しかしこのドキュメンタリーを見て、彼の作品が映画館の大スクリーンに最適化されてたことが痛いほどわかりました。ヒッチコック映画は、光と影の芸術です。映画館で上映の機会があれば必ず観ます。
駒井尚文(映画.com編集長)