INTERVIEW
――アウグストとパウリナを知ったきっかけは?
彼らはチリで長年にわたり、社会的によく知られた存在でした。私はある日、大学でプレゼンテーションをすることになり、パウリナがその大学の演劇学部の学部長を務めていました。彼女がプレゼンテーションをしているとき、その部屋にアウグストがいることに気づきました。彼はその時点ですでにアルツハイマーを患っていて、彼女が彼の介護を仕事や生活の一部にしているのを、目の当たりにしました。彼は自宅にいるだけではなかったのです。彼女の仕事に同行し、参加していました。彼のために仕事が中断されることがあっても、彼女は恥じることはなく、彼がそこにいることを楽しんでいました。アルツハイマーの患者が介護する人の生活にこれほど溶け込んでいるのを、見たことがありませんでした。彼女は彼がその場にいることを、本当に喜んでいるようでした。
――アウグストとパウリナがどんな人物か、教えてください。
アウグストは、非常に重要なジャーナリストです。チリの歴史を振り返ると、彼の仕事は2つに分かれます。独裁政権時代、主要メディアが事実を報じなかった頃に、国内の出来事を内密で扱うニュース報道「テレアナリシス(Teleanalisis)」の一員として、彼は重要な役割を果たしました。仲間のジャーナリストと街に出て、起きていることすべてを記録しながら、人々にインタビューし、テープを秘密裏に全国に配布しました。今日ではこれらの映像は、チリの独裁政権時代を伝える主要なアーカイブとなっています。彼が担当して作成した映像は、今では目に見える国の記憶であり、私たちの歴史にとって非常に重要なものです。
民主主義が復活すると、彼は国営放送(TVN)で、あらゆる文化的番組の司会者、プロデューサー、脚本家を務めました。彼は、2つのものを記録しています。1つは、この国の歴史、もう1つは、国内の芸術的創作活動です。
パウリナは、演劇、映画、テレビで活躍した女優として有名です。彼女の名前はよく知られていますが、政治活動でも認知されています。チリの文化省が設立されたとき、最初の大臣になりました。彼女の文化と芸術に対する生涯にわたる情熱が、私の目をひきました。彼女がとても献身的にパートナーを介護する姿は感動的です。
――ふたりの親密な瞬間は、どのように撮影されたのですか。
私が作った映画で、一瞬ごとに感動を感じたのはこの作品が初めてでした。幸運にも、過去4年間、私はアウグストとパウリナにカメラ持参で同行することができました。チームは、私、撮影監督、音響技師の3名からなる小さなものでした。私たちは意図的にスタッフを少人数にしたかったのです。彼らのプライバシーを尊重し、煩わせないようにするためです。
取材の過程では、パウリナもカメラを手にして撮影しています。夜のコミュニケーションの様子など、私が決して目にすることがなく、立ち会うことができなかった非常に親密な瞬間を捉えてくれました。
かつてアウグストは、家族の生活も撮影していました。そこで私たちは、この素材も織り交ぜながら、25年に及ぶ無償の愛を提示することができたのです。彼らを撮影するだけでなく、彼らがお互いを撮影した何年分もの映像を活用できたことは、とても幸運です。
――映画化の同意を得るプロセスについて教えてください。
この映画を制作するようパウリナを説得したのはアウグストでした。ドキュメンタリーについてふたりに話したところ、彼女は疑問を抱きましたが、彼はこう主張しました。「自分が弱っている姿を見せることに、何の問題もない。私はたくさんのドキュメンタリーを撮ってきた。『この状況では撮影されたくない』なんてことがあるだろうか」。彼は常にカメラの存在を意識し、新型コロナウィルスにより撮影が不可能と思われたとき、彼らが共同で撮影の続行を決定しました。この記録を残すことを決めたのはパウリナ、アウグストの子供たち、そしてアウグスト自身であり、彼らは皆、この映画の成果にとても満足し、誇りにしています。まるでアウグストの息づかいが伝わるスクラップブックのようだと言っています。
――前作『83歳のやさしいスパイ』と同様に、本作では老いを扱っています。このテーマのどのような点に関心があるのでしょうか。
肉体が変化することや老いることを普通に受け入れ、儚さの中に美を見いだし、有限性や死を普通にあるものとして探求することに興味があるのでしょう。こうした変化は時間の経過によって生じるものです。歳を重ねて死ぬことを誰も教えてくれなかったので、観察し、標準化することに興味を抱きました。もしかしたら、これが恐怖に苦しむ人々に慰めをもたらすかもしれません。『エターナルメモリー』は何よりも、愛が儚い状況でどのようになるのか、完全な記憶がなくなったカップルはどうなるのか、といったことを扱ったラブストーリーです。私はこの物語の撮影を楽しみました。誰かを失うことについて考えることもなく、記憶の喪失のことも実感しませんでした。自分が経験したことのない、自分の周囲で見たことのない関係性を彼らは持っていました。私はそれを楽しみ、羨ましく思っていたのです。大事なのは、彼らが何者であったかではなく、今の状況であり、お互いがいるということです。
監督・プロデューサー
マイテ・アルベルディ/MAITE ALBERDI
1983年3月29日、チリ・サンティアゴ出身。2011年に、初の長編映画「The Lifeguard」を発表。自らの製作会社Micromundo(ミクロムンド)で、第2作「TeaTime」を監督し、2016年ゴヤ賞最優秀イベロ・アメリカ映画賞にノミネート、2016年の短編映画「I am not from here」はヨーロッパ映画賞にノミネートをはたす。監督、プロデュースを手掛けた『83歳のやさしいスパイ』(2020)は米アカデミー賞®長編ドキュメンタリー賞にノミネートされ、アカデミー賞にノミネートされた初のチリ人女性となった。本作『エターナルメモリー』はサンダンス映画祭のワールド・シネマ・ドキュメンタリー部門に出品され、審査員大賞を受賞。2023年の第73回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門にも出品されヨーロッパプレミアを飾ったほか、本作で自身二度目となるアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネートをはたした。